わたし
いつものように私は冷凍庫からわたしを引きずり出して額にキスをする。
「どうしてしまったの?」
わたしはいつの日からか目覚めなくなってしまった。毎日毎日こうして安らかに眠るその凍てつく部屋から引きずり出しているのにも関わらず。わたしのためになら何だってしてきたのに。部屋を好みの事物で飾ったし、いい感じの匂いで満たされているはずでしょ。
それなのに…それなのにわたしはちっとも目覚めやしない。
かつて私はわたしで、笑いたいときには笑っていられたし泣きたいときには泣いていられた。どうして無垢で汚れのないわたしは眠りについてしまって、私だけが取り残されてしまったの?もう笑えないよ。泣き方もわすれちゃった。
きっと明日も同じ気持ちで、わたしが長い眠りから覚めるのを期待して、でも心のどこかでわたしはもう帰っては来ないと知っているのかもしれない。
偽物の私なんかが本物のわたしのフリをして、今も呼吸をして、本来わたしがあるべき時間も空間も浪費している。いつわたしが眠りについて私が入れ替わって私がわたしを眺めているという構図になってしまったんだろう。私が救いたかったのはわたしなのに。
わたしの亡骸を抱えている限りは私は短い永遠の中でずっと偽物であり続けてしまうのでしょう。あるいは仮にわたしが目を覚ましたとき、私は何事もなかったかのように消えてなくなりでもするのでしょうか。
それでも毎日毎日私はわたしが目を覚ますのを空想して額にキスをする。