#生きる練習

日常系ゆるふわ思い付きブログ

死神

引越しを終えたばかりのまだ空っぽの部屋でうずくまる夕方過ぎ。新しいアパートは君の家の近くを選んだけれど、大学から少し遠いだけの場所になってしまった。これでお終いにしようという声が全身に伝播して、どこにも力が入らなくなった。とても立ってはいられない。夢であってほしいとも思ったけれど、さっぱりと片付いた空虚な部屋こそが何よりも現実味を帯びていて、むしろたった今夢から醒めたような気もしてきた。一人で生きて行く方法はもう忘れてしまった。こうしていつまでたっても自分のことにしか執着できない自分、そんなの知っている。また人のことを想うふりをして利己主義に傾倒してしまった。賢明な私は今更そんな自分を責め立てたりはしない。私をお終いにした選択に最大限の賛辞を送ることで全て精算してやる。自己完結しかできない空っぽの心の部屋で。

何も出来ずに外国から帰ってきて、本当は何も失っていないのに、全てのものが消えて無くなった気がした。でも本当は少しの間(それはとっても長い時間だったけれど)姿を消していた垢抜けなくて礼節を知らない、いつかの自分を取り戻しただけなんだろう。いつだって私は君の好きを自分の好きに取り替えて、君も私も騙してきたんだと思う。いつかの実体を持った意思の塊は一体どこに行ったんだろう。

大学に入って漫画もアニメもあんまり見なくなった。音楽もあんまり聴いてない。ひとつのことに全てを捧げる生き方に憧れていたけれど、飽き性で凡庸な自分に向いた生き方じゃなかったな。はじめから中途半端な愛し方を一つに絞った結果だけが手元に残っている。

君も私も男や女やそれ以外である前に人間だったはずなのに、どうしていつからか境目ができたんだろう。すり抜ける君の視線。YouTubeから流れるアイドルソング、そのカバー 。誰かが歌ってる。本家の方は君の部屋で見たっけな。社会運動の中の少数派の歌だって言ってた。でも私にはそうは聴こえなかったし本家よりこっちの方がずっといいや。今だからやっとそう言えるんだと思った 。シスヘテロ男性、マジョリティー、意味もわからない聞き飽きた言葉たちが脳裏をかすめる。誰かを排除して、誰かに排除されて、傷つけ合って舐め合って、生きてきた。そしてこれからも。自動再生される次の曲。同じ歌手らしい。

いつか男とか女とか

関係なくなるくらいに愛し合おうよ

君から聞きたかったこの言葉を誰かが歌っている。それだけで救われてまた立っていられなくなった。