特異点
ぱっと目を開けた。
何者かがテントに迫ってくるのがわかった。
100メートル、50メートル、、、
テントを震わせる。
また何者かはどこか彼方へ去ってゆく。
薄オレンジのビニールと凍てついた空気がまだ微かに振動している。
何事もなかったかのように再び眠りに就く。
ここは静寂が支配していて、私なんてすぐに飲み込まれてしまうだろう。
そんな疑念などなかったかのように、朝は私を飲み込むどころか私を暗闇から荒野に吐き出したようだ。
ここはモンゴル。
ここは風さえも音を立てずに通り過ぎるほどの草原が広がっている。
昨晩の感覚だけがこびりついている。
何者かは確実に私を目掛けて来ていたはずだ。
しかしあれは動物だったろうか。夢だったのか。かまいたちみたいなものか。
それからすっかり私はこの名前もない場所に溶け込んでしまったのでございます。